大岡昇平

吉野を訪れた文人

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大岡昇平は「吉野の春秋」の中で、このように表現しています。
・・・吉野山は申すまでもなく桜の名所である。私は京都、鎌倉の桜を知っているが、何といっても、あの全山桜になってしまう吉野の桜に及ぶものはない。

たしか昭和二十八年だったから、もう二十年前になる。上の千本から奥の千本に行ったことがある。
水分神社から奥は深山の感じになる。中の千本が満開でも四月中旬でも、木々はやっと芽を吹いたばかり、山の冷気が身にしみた。西行庵まで往復する間、誰にも会わなかった。

下の千本まで降りてきた頃は、日が暮れかかり、茶屋や旅館の立ち並ぶ通りの薄闇は、花の匂いにむせるようだった。

一泊して朝の桜を見たかったが、旅館が満員で果たせなかった。今だに心残りである。・・・

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