渡辺淳一「うたかた」③

吉野を訪れた文人

渡辺淳一「うたかた」で、吉野の桜の描写エンディングです。

宿の部屋からは谷の一面しか見えなかったが、ここまで登ると左右の山並みに囲まれた谷の全てが見渡せる。桜は白から朱まで、微妙に色調を変えながら谷底から山肌まで迫っている。

「こんなに一度に、沢山の花を見たのは初めてです」

 妙子がいうとおり、安芸もこれほどの桜を一度に眺めたのは久しぶりである。

「山に桜があるというより、桜の中に山がある・・・」

          (中 略)

「こんな美しい桜を見ながら、死ぬのならいいわ」

 妙子がいうのにうなずきながら、安芸は西行の “ねがはくは花のもとにて春死なむそのきさらぎの望月の頃”という歌を思い出した。

「美しいものを見ると、人は死にたくなるのかもしれない」

 素直にうなずく妙子を身近に感じながら、安芸はふと、この桜の中で妙子と一緒に死んだらと考える。

 上千本から中千本へ下るにつれて花はさらに厚みを増し、花の絨毯のなかに飛び込むようである。

どうでしょうか、吉野の桜を見たくなりましたか?来年は是非大切な人と一緒に吉野の桜を見に来て下さい。予約はお早めに。ちなみに写真は旅館・歌藤の前庭にある桜です。

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