渡辺淳一「うたかた」①

吉野を訪れた文人

渡辺淳一の小説に「うたかた」があります。この物語も渡辺淳一ワールドである中年男女の恋愛小説となっています。作家の男性と着物デザイナーの女性が、お忍び旅行で吉野に満開の桜を見に行く場面があり、男性が女性に吉野の山桜の見方を紹介しています。

・・・上市を過ぎるとあたりは一段と嶮しくなり、行く手の山肌に桜が見えてくる。 

「まだ少し早いのでしょうか」妙子がつぶやくが、花はほぼ満開に近い。

「山桜は花弁が小さくて花が咲く前に葉が出るので、満開といっても染井吉野とは少し違うかもしれない」

たしかに山桜は見た目には派手さはないが、その控えめなところにかえって風情がある。

「染井吉野を厚化粧をした女とすると、山桜は素顔の美しい女、ということになるかもしれない」・・・。

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