内田康夫「天河吉野殺人事件」③

吉野を訪れた文人

内田康夫「天河伝説殺人事件」の作品テーマは能です。ここでは能「国栖」も紹介しています。

この夜、奉納されたのは、『国栖』、吉野ゆかりの能であった。

『国栖』のストーリーは、壬申の乱の際、浄御原天皇(天武天皇)が大友皇子に追われて吉野の山奥に逃れた故事に取材したものである。

 吉野川の急流を船で下ってくる老夫婦が、わが家の辺りに紫雲が漂っているのを見て、高貴なお方がいるのではないかと驚く。家に帰ってみると、案の定、そこには王冠を戴いた浄御原天皇とその一行が屯していた。天皇のために、姥は摘んだばかりの芹菜を、尉は釣ったばかりの鮎を焼いて供える。吉野川を「菜摘の川」と呼び、鮎を「吉野の国栖魚」と別称するのは、この故事から出ているという。尉は天皇の為に鮎を用いて、行く先の吉であることを占う。尉はとっさに船の中に天皇を隠し、追手に対して激しい気迫をもって立ち向かい、追い払う。やがて夜も更け、老夫婦が姿を消すと、美しい天女が現れて舞を舞う。それにひかれるように吉野の神々も来臨し、さらには蔵王権現までが姿を見せ、天武の御代の万歳と国土安泰を誓う。天皇の一行を救った老夫婦は、実はこの神々の化身であったのだ。

 この本を見て国栖の地で、能「国栖」をしてみたいとの思いが湧きあがりました。そして十年後に叶いました。思いは持ち続けるものですね。

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