第十話 樽丸製造 大口孝次さん

吉野なひと 50人

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皆さんは「樽丸」というものをご存知でしょうか。樽の材料となる杉板のことです。より正確には、その杉板1枚ごとを「クレ」と呼び、「クレ」を束ねたものが「樽丸」です。_XSF7553現在ではホーローやガラス、プラスチックなどが主流となった保存容器ですが、昔は木でできた「樽」が大いに使われていました。「節がなく、目が詰まっていて、色と香りが良い」という特長を持つ吉野杉は、樽に最適の素材として品質を高く評価されました。

私たちの日常生活で樽が活躍する機会は減っています。比例して樽丸を製造する事業所もわずかになりました。吉野町で樽丸くりやまを営む大口孝次さんは、吉野の樽丸製作技術を持つ数少ない技術者の一人です。この技術は国の重要無形民族文化財に指定されています。

大口さんの工場に伺って、樽丸製作の手順を見せていただきました。これがめっぽう面白いのです。

_XSF7444最初はチェーンソーが登場(いきなり大物感ありますね)。杉の丸太を伐り分けていきます。「先山(さきやま)」と呼ばれる作業です。昔は山で木を伐り出したときに木挽鋸(こびきのこ)で行っていたそう。山で先にやってしまう作業だから「先山」なんですね。
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次は「大割り(おおわり)」です。先山した材を薪のようにさらに5~6等分します。「こうして刃をちょっと入れると、スパッと割れますよね。この割れ方は吉野材の特長ですね」と大口さん。
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そしてこの後、「樽丸割り(たるまるわり)」と「削り(けずり)」が行われます。この工程では昔ながらの道具だけを使います。

「樽丸割り」に使う湾曲したナタに、「削り」に使うセン。どちらも樽丸制作に欠かせない独特の道具です。大口さんのそれは、年季が入っていると同時に丁寧に手入れされ美しいものでした。
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_XSF7189道具の美しさもさりながら、大口さんが働く姿も実に絵になるんですよね。動きによどみがないこと、力みがないこと。体の軸がしっかりと通っているからなのでしょうか。何もかもがスムーズで、ついつい見入ってしまいます。

_XSF7582なかでも「削り」の様子には息を飲みました。一つのことをやり続けて身に付けた職人さんだけが持つリズム。シュッシュッと木が削られる音が繰り返されます。その様子はどれだけ眺めても見飽きないのです。(あんまり見入ってしまって、大口さんにはずいぶん長いこと作業をしてもらうことになってしまいました……)
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_XSF7379こうして削り終えたクレは側面を整える「耳裁ち(みみたち)」、クレを束にして紐掛けする「結束(けっそく)」の工程を経て出荷され、樽屋さんで樽に組み上げられるのだそうです。
_XSF7425先ごろ、和食がユネスコの世界遺産に登録されました。和食の基本を支えるものとして、醤油、味噌、日本酒は欠かせません。これらの発酵食品は木でできた樽や桶から生まれていました。酢やみりんも同様です。樽や桶なしに「ほんまもんの日本の味」はあり得なかったのだと思います。
_XSF7567大口さん、「いろんな人に樽酒を飲んでみてもらいたい」と思っているそうです。「木でできた樽や桶から生まれた食」を「旨いよね!」と支持する人が増えること。大口さんは、そこを大事にしているのだなと感じました。そして「木でできた樽や桶から生まれた食」は、やっぱり本当に旨いのですから!

文 砂川みほ子 写真 山本茂伸

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